【あらすじ】
須永恵(福士蒼汰)と恋人の木下亜子(福原遥)は、共通の趣味の天文の本や望遠鏡に囲まれながら、幸せに暮らしていた。しかし朝、亜子を見送ると、恵は眼鏡を外し、髪を崩す。実は、彼は双子の弟のフリをした、兄・須永涼だった。1ヶ月前、ニュージーランドで事故に遭い、恵はこの世を去る。ショックで混乱した亜子は、目の前に現れた涼を恵だと思い込んでしまうが、涼は本当のことを言えずにいた。幼馴染の梶野(宮沢氷魚)だけが真実を知り涼を見守っていたが、涼を慕う後輩の日和(石井杏奈)、亜子の行きつけの店の店長・雄介(宮近海斗)が、違和感を抱き始める。二重の生活に戸惑いながらも、明るく真っ直ぐな亜子に惹かれていく涼。いつしか彼にとって、亜子は一番大事な人になっていた。一方、亜子にもまた、打ち明けられない秘密があったー。
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Ⓒ2025 映画『楓』製作委員会
【作品概要】
■タイトル:『楓』
■出演:福士蒼汰 福原遥
宮沢氷魚 石井杏奈 宮近海斗
大塚寧々 加藤雅也
■監督:行定勲
■脚本:髙橋泉
■原案・主題歌:
スピッツ「楓」(Polydor Records)
■音楽:Yaffle
■プロデューサー:井手陽子八尾香澄
■製作:映画『楓』製作委員会
■制作プロダクション:
アスミック・エースC&Iエンタテインメント
■配給:東映アスミック・エース
■コピーライト:Ⓒ2025 映画『楓』製作委員会
Ⓒ2025 映画『楓』製作委員会
静寂の中に真実を探す、諦めと共存の物語
映画「楓」は、スピッツの著名な同名楽曲を原案とし、その切ない旋律と歌詞の世界観から深く着想を得て制作された、オリジナルの恋愛映画だ。
本作は、単なる楽曲の映像化を超え、人間の内面に深く根ざす「諦め」を、「身代わり」から始まる切ないラブストーリーとして表現されている。
この映画の核心的なテーマは、「楓」の歌詞世界と深く結びついている。
それは、避けられない「さよなら」(恋人の死)が前提としてあることだ。
歌詞にある「さよなら 君の声を抱いて歩いていく」ために主人公ふたりに必要だったのは、時間と記憶だった。
それらをどう抱きしめるかという問いを静かに立ち上げる丁寧な構成が視聴者に響くだろう。
優しい嘘に包まれて
愛する人を失った時、日常は異世界に変わる。
異世界に放り出されたら、あなたはどうするだろうか。
目の前の「嘘」に縋って生きるのは罪ではない。
身代わりとなった双子の弟、涼(福士蒼汰、一人二役)は亡き兄の恋人、亜子(福原遥)を「兄の恵(ケイ)」として微妙な距離感で包んでいく。
その過程が前半部を占めるのだが、普通の恋人の日常と同じなため、そこに隠された秘密に気付かないまま読者は観続けてしまう。
そして後からすべてを知ることになる数々の伏線が張り巡らされている。
本作が扱う「嘘」は、サスペンス的な衝撃を与えることを目的としたものではない。
描かれるのは、誰かを深く想うがゆえに「ついついてしまった嘘」と、それを知ってか知らずか深く追求することもなく「受け入れてしまう弱さと優しさ」だ。
この人間の心のねじれや弱さ、すなわち「心の動き」に焦点を当てることで、観客は深い共感を覚えるだろう。
死んだはずの双子の兄、恵と自身の涼を一人二役で演じる福士蒼汰。
優しさと脆さを絶妙なバランスで好演している。
表情や姿勢、そして声のトーンの違いといった微細な要素を駆使して、「同じ顔なのに別人」であることを観客に納得させる見事な演じ分けを見せ、物語の基盤を確固たるものにした。

Ⓒ2025 映画『楓』製作委員会
巧妙に設計された物語構造と演出
二人の時間は、一見すると穏やかで幸福そうに見えるものの、観客には最初から「どこか噛み合っていない」小さなズレが少しずつ感じられるように慎重に作られている脚本も良い。
古典的なモチーフである双子の「入れ替わり」を物語の軸として用いているが、これは劇的な展開のためではなく、恋人を亡くした女性が現実を受け入れるために必要だったからだ。
観客に常に小さな違和感を与えながらも、安易にすべてを説明することを避けているのも良い。
「説明しない余白の仕組み」や、「さりげない行動や発言」が、前半の印象とはまったく異なる違和感を伴って後半に突入する。
恋人を失った亜子の気持ちの動きに沿うように少しずつ進んでいた前半からのこの導入は一気に観客を引き込むに違いない。

Ⓒ2025 映画『楓』製作委員会
演技と映像美が支える世界観
映画全体は静かであり、激しい出来事を前面に出すよりも、内面的な「心の動き」に焦点を当てた作りが徹底されている。
それをより確かに浮かび上がらせるためか、季節の変わりゆく様子や街の風景といった視覚的な要素も、単なる背景としてではなく、二人の関係性の変化と呼応するように繊細に描かれている。
特に印象的なのは、冒頭のニュージーランドの広大な景色。
そしてふたりが船に乗り星空を見上げるシーンだ(どこに出てくるかは作品の中で探してください)。
ともに「自然」に包まれているが昼と夜のそれぞれの顔を映すことで、主人公たちの心の襞を描写した。
映画「楓」は、軽いラブコメや観終わってすぐにスカッとするハッピーエンドを求める気分の観客にとっては、少し重く感じられる可能性がある。
しかしながら、この作品は繊細な心やその背景を深く掘り下げることを好む観客に向いている。
そして物語が終わり、エンドロールが流れると、ふたりの過ごしてきた時間に意味があったと思うだろう。

Ⓒ2025 映画『楓』製作委員会
再びスピッツの楽曲「楓」を聴くたびに、映画で描かれた切ない物語の情景を思い出すに違いない。
これは、楽曲と映画のテーマが深く融合した、静かで内省的な傑作だ。
🎵僕のままで どこまで届くだろう
果たして主人公ふたりの想いは、ありのままの自分で誰かに、どこかに届いたのだろうか。
静かにゆっくりと流れる恋人たちの日常を垣間見ていたら気付けない伏線の数々。最初から細部をしっかり観ることをオススメする。
12月19日(金)全国公開