四季と共に生き、四季と共に味わう。
北国の一年の記録。

©NorthernFoodStoryFilmPartners2024
北海道を舞台に、四人の料理人と北国の四季が織りなす食の物語を追ったフードドキュメンタリー。
札幌のフレンチ「ラ・サンテ」高橋毅シェフは、生産者との信頼関係をもとに、土耕で育てられたホワイトアスパラガスや羊農家が手塩にかけて育てた希少のミルクラムを一皿へと昇華させる。栗山町の日本料理店「味道広路」では、酒井夫妻が郷土の知恵と温もりを受け継ぎ、日本のもてなしの心を次世代へと伝えている。札幌の郊外にある循環型レストラン「アグリスケープ」では、自ら農園を営む吉田夏織シェフが畑と厨房を往復し、自然と調和する料理を四季折々に生み出す。そして札幌・すすきの「まる鮨」では、川崎純之亮大将が旬の海の幸と温かな会話で、人と人が笑顔で語り合う空間をつくり出す。
本作は、料理人と生産者、土地と季節が交錯する日々を淡々と切り取り、一皿の料理に込められた時間と想いを映し出す。華やかさの裏にある労働と葛藤、そして北海道の自然と共に生きる歓び。
北国の四季と人間が紡ぐ食の景色が、スクリーンに広がる。(HPより)
◆映画公式サイトはこちら
【作品概要】
■監督・脚本・撮影・編集:上杉哲也
製作総指揮:伊藤亜由美、宮口宏夫
エグゼクティブプロデューサー:北崎千鶴、谷嶋真行
プロデューサー:山口普
音楽:林正樹 編集:寺本遥 制作担当:佐藤万尋 整音:井口勇 料理監修:小⻄由稀
制作会社:クアニ 制作協力会社:ノックオンウッド
製作:クリエイティブオフィスキュー、北海道新聞社
配給:バリオン ©NorthernFoodStoryFilmPartners2024
映画「北の食景」は、北海道の四季と、その大地に根ざして働く料理人たちの姿を静かに見つめながら、豊かな体験を提供する「食のドキュメンタリー」である。
グルメガイドやプロモーションとは一線を画している点で、貴重な作品といえるだろう。
四人の匠と四季の巡り
本作品は、北海道札幌市を舞台に活躍する4人の料理人の一年を描いた約100分の長編ドキュメンタリー映画だ。
登場するのは、
フレンチ「ラ・サンテ」の髙橋毅

©NorthernFoodStoryFilmPartners2024
日本料理「味道広」の酒井弘志

©NorthernFoodStoryFilmPartners2024
寿司店「まる鮨」の川崎純之亮

©NorthernFoodStoryFilmPartners2024
フレンチ「AGRISCAPE」の吉田夏織。

©NorthernFoodStoryFilmPartners2024
彼らはジャンルも立場も異なる料理人たちだ。
北海道の四季に沿って構成され、それぞれの厨房での作業と食材を求めるフィールドワークが並行して描かれている。
本作の大きな特徴は、説明的なナレーションを一切排している点である。
物語は、料理人と客の声、そして調理音や生活音だけで紡がれている。
編集のリズムも特徴的であり、カットを早くつなぎすぎない。
素材と時間へのこだわりが感じられるテンポで進み、観客の感覚を徐々に「北の食」のスピードに合わせていく。
「食育」の真髄と労働の視覚化
本作は、単に美しい料理や食材を映すだけでなく、料理人が「土地と季節にどう折り合いをつけるか」という共通の問いに向き合う姿を描き出す。
春夏秋冬の移ろいとともに、ホワイトアスパラ、羊、山菜、海産物のような旬の食材が画面を飾るが、映画が真に焦点を当てるのは、「素材の美しさ」のさらに先にある、仕事の積み重ね、すなわち「労働」である。

©NorthernFoodStoryFilmPartners2024
牧場や畑での作業、山での採取、厨房での仕込みが、淡々と、しかし切実さを伴って映し出され、「一皿」に続くまでの時間の流れが視覚化される。
天候に左右される不安も隠さずに描かれることで、華やかな料理のイメージの裏にある「現実の重さ」がしっかりと観客に伝わる。
特に「AGRISCAPE」の吉田は、畑や養蜂、畜産まで自ら関わり続けるスタイルが紹介されている。その過密な日常からは、「料理人」という職能の境界がどこまで広がるのかが見えるだろう。
この映画は、「食育」の真髄を教えてくれる作品である。食育とは「様々な経験を通じて『食』に関する知識と、健全な食生活を実践する力を育むこと」と定義されているが、本作を観ることで、それは「食に関する知識と、健全な食生活を実践する力を持っている人が身を持って教えてくれること」だと理解できる。
私たちは、彼らエキスパートたちから、人間は食べるものによって心も体も形作られることを教わるのだ。

©NorthernFoodStoryFilmPartners2024
厳しくも豊かな大地、北海道
この作品の舞台は北海道でなければならなかったと思う。監督の出身地ということもあるが、厳しい寒さを越えて迎えた春の食材が際立ち、畑と畜産を兼ねて料理に還元できる環境があるからだ。
登場するシェフの中には、野菜を育て畜産を営む第一次生産者を兼ねている人もいる。ある料理人は、何を食べて育ったか分からない豚肉をお客様に出せない、と語っている。
画面いっぱいに映る可愛い羊やヤギ、それを囲む大自然は癒しを与えるが、私たち人間はその肉を食べて生きている。料理人たちの真摯な眼差しは、この命の循環に対するプロフェッショナルとしての態度を示している。
職人の「本質」と哲学
朝の静けさの中で仕込みに入る料理人たちの姿は、言葉も発さず黙々と手を動かすため、とても凛々しく、近寄りがたくさえある。
聞こえるのは、食材を扱う作業の音だけである。映像は、彼らの真摯な眼差しと、見事な手さばきを鮮やかに切り取っている。
出てくる料理はどれも芸術のように美しいが、カメラはその美しさの裏にある料理人たちの「見えない努力」にもスポットを当てている。
休みの日も食材の美味しさを引き出す作業を惜しまない者。
鳥の声を聞きながら自然の中で食材一つひとつを愛しむ姿に、その料理人の「本質」が見える。食に携わることへの感謝や、お客様に喜ばれることが嬉しいという気持ちが、ひしひしと伝わってくる。
彼らは一流の、高級な店の料理人たちだが、大仰な説明や格式ばった料理哲学などは披露しない。
ある料理人は、「美味しさは大前提、楽しんで帰ってもらいたい」と、お客様へのサービス精神を第一にする姿勢をカメラは捉えている。その人間性はどこまでも庶民に近い。彼らの店へ行ってみたくなるような演出になっている。

©NorthernFoodStoryFilmPartners2024
料理の全体像:空間と会話
このドキュメンタリーは、単に料理人を追うだけでなく、主役である「料理」そのものも美しく捉えられている。盛り付けの工程から、完成したものが出されるまでが「料理」であることが分かる。
さらに言えば、店主と客の会話も「料理」の一部であり、作品世界とマッチしている。店のインテリアや器などもじっくりと魅せられ、訪れる人々の落ち着いた雰囲気が作品全体の質を高めている。静かな牧場で耳を澄ますように、料理の音と自然の音に心を合わせる体験である。

©NorthernFoodStoryFilmPartners2024
12月5日(金)よりヒューマントラストシネマ有楽町/シネ・リーブル池袋/アップリンク京都にて公開
その他の上映情報は公式サイトよりお確かめください。