11月22日、有楽町朝日ホールにおいて、コンペティション作品である映画『しびれ』の舞台挨拶が開催されました。
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【作品概要】
日本 / 2025 / 118分 /
監督:内山拓也(UCHIYAMA Takuya)
配給:NAKACHIKA PICTURES
日本海沿いの町に暮らす少年は、暴君のようだった父の影響で言葉を発しない。今は、母とともに暮らしているが、水商売で稼ぐ彼女はほとんど家に帰らない。どこにも居場所がなかった少年は、父の行方を求めて生家を訪ねることを決める。そして、彼の運命は大きく揺らいでいく。
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本作は、これまでに『佐々木、イン、マイマイン』(2020年)、『若き見知らぬ者たち』(2024年)といった作品を手がけてきた内山拓也監督が、自身の自伝的な要素を深く刻み込み、新潟県を舞台に描いた痛切な映画です。
舞台挨拶には、内山監督をはじめ、主人公・大地を演じた北村匠海さん、そして青年期、少年期、幼少期の大地をそれぞれ演じた榎本司さん、加藤庵次さん、穐本陽月さんが登壇しました。

左から穐本陽月、加藤庵次、北村匠海、榎本司、内山拓也監督 © TOKYO FILMeX
ワールドプレミアを迎えたことに感謝を述べた内山監督に対し、北村さんは、ちょうど一年前の撮影を振り返り、「誰かの目にとまり、救われてほしいと思う映画」であり、「最初が東京フィルメックスで良かった」と心境を述べました。
登壇した歴代の大地役の俳優たちが自己紹介をする様子は、歴代の主人公のコンビネーションが感じられ、会場を和ませました。
MCの八雲ふみねさんから、自伝的な要素を含む『しびれ』を制作するに至った経緯について問われると、内山監督は制作の背景を語りました。
監督は、確かに以前の作品では「抗えない現実と対峙するような姿を描くことに重きを置いてきた」と認めつつも、人生を歩む中で「自分は誰なのか、どこから来て、どこに向かっていくのか」といったテーマに向き合わなければならない瞬間に、このタイミングで至れたことが一番大きな理由だと話しました。
さらに、「過去の作品を経て、今度は未来の話をしたいと思うようになり、過去が未来を決めるわけじゃない。過去を経て今、そして未来へと続く道のりを描こうと思った」と、本作に込めた熱い思いを明かしました。
内山監督の強い思いを受け、なぜ本作のオファーを受けたのかと問われた北村さんは、映画『アンダードッグ』(2020年)の撮影時にプライベートで内山監督と出会い、その作品を見て以来、いつか必ず一緒に仕事をしたいと思っていたと語りました。
しかし、『しびれ』の撮影時期は、朝ドラ『あんぱん』の撮影と重なっており、並行して本作に向き合えるか悩んだといいます。その際、内山監督は、本作が自身が初めて書いた脚本であり、自分自身の人生の話であることを北村さんに伝え、何度も話し合いを重ねる中で、この作品と共に「心中してほしい」という強い思いをぶつけたそうです。

北村拓海さん © TOKYO FILMeX
北村さんは、この監督の言葉を「すごくソリッドな言葉」としつつも、そこに「胸を打たれた」と振り返り、「内山監督と、ここにいるみんなで、この映画を『誰よりも愛そう』という思いでやりました」と、当時の覚悟を語りました。
撮影現場での監督の姿勢について、北村さんは「ある意味で自傷行為と言えるほど身を削って作品を作っていた」と感じていたとし、監督が自分たちの芝居を一番感じ、涙し、時には笑ったりしているのを肌で感じていたため、「絶対に監督の言うことにノーは出さない」と決意したと述べています。
役作りのために、北村さんは「北村匠海という要素をかき消した」と語り、ほくろを消すなどして、自分自身を消して役に挑みました。
北村さんは、お芝居は役作りが8割、残りの2割は役者自身の経験から滲み出る個性で完成すると考えていましたが、今回はその2割をかき消す必要があったといいます。
心の枯渇を演じるため、食べない、寝ないなど、あえて過酷な状況に自分を追いやり、新潟の寒さと闘いながら、肌で感じる肉体的なダメージも含めて役に挑んだと、その徹底した役作りを明かしました。
大地を演じた4人の俳優が勢揃いした際、MCの八雲さんが皆目元が似ていると感じたことから、キャスティングについて質問がありました。
内山監督は、同一人物を4人が演じるため、見た目が似ている必要があると考える人もいるが、監督が重視したのは「心が宿る目」だったと説明しました。心の窓である皆の目が、青年期を演じた北村さんに向かって行くような眼差しを求めて、大地というキャラクターに向き合える役者を選んだといいます。

© TOKYO FILMeX
また、監督がキャスティングで決めていたもう一つのことは「子ども扱いをしない」ことでした。「『この子』とか『子役』みたいには絶対に思わず、全員に北村匠海と同じような接し方をしたつもり」だとし、「子どもが一番大人のことを見ているし、世界を感じている。それぞれ考えを持った人として向き合うように気を付けた」と述べました。
この監督の姿勢に対し、少年期の大地を演じた榎本さんや、幼少期の加藤さんは、子ども扱いせず対等に話してくれたと感謝を伝えました。最年少の穐本さんも、監督が優しく、いつも自分の目線に合わせて話してくれたことや、学校や好きなラーメンの話をしたことが嬉しかったと元気に語りました。
同じ大地という役を演じた3人の俳優について聞かれた北村さんは、3人を「素晴らしいの一言」と称賛しました。彼らが真っ直ぐピュアに演じているのを見たからこそ、自身も「自分を消してこの大地という役に向き合おうとした」と語りました。
北村さんは、寒い新潟の地で過酷な撮影に体当たりで向かってきた3人からバトンを受け取り、最後は監督に返したいと思ったとし、「監督は5人目の大地でもある」と表現しました。
舞台挨拶の締めくくりとして、北村さんは「誰よりもこの映画を愛し、誰よりも抱きしめた5人がここにいます」と力を込め、観客に対し「どう感じるかは自由ですが、同じように大地を抱きしめてあげられる1人になってほしい」と強く呼びかけました。
なお、本作は全編フィルムで撮影されています。内山監督は、物質的なものが減りつつある現代において、「あえて物質的なものにこだわった」とし、光の方へ、前へ、最後までフィルムに焼き付けるような気持ちで撮影したことを明らかにしました。

© TOKYO FILMeX
映画『しびれ』は、2026年に公開予定