11月22日公開 「もういちどみつめる」レビュー:自然が織りなす人間関係の複雑さを描く

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◆第21回大阪アジアン映画祭インディ・フォーラム部門正式出品

© Aerial Films

【あらすじ】

  山のキャンプ場を営む典子の元に突然の来訪者がやって来る。それは、1年前に少年院を出所した甥っ子のユウキ。ユウキは、典子の姉である母親を探していると、このキャンプ場にやってきたが、典子が義理の兄に電話すると、ユウキと義理の兄はうまくいっていないとのこと。典子はユウキにキャンプ場でバイトをさせてあげ、「私にできることは、あなたの話を聞くことだけ」と寄り添う。近所に住む明夫によると、典子は人の表情を読み取るのが苦手で、言葉を大切にしている。「世界の見方は皆同じじゃない」と言う典子に、次第に心を許していくユウキ。

 そんなある日、典子の息子でユウキと同い年の従兄弟である健二が、大学の友達、由香里とキャンプにやってくる。森の植物や星など、ユウキと由香理が共通の話題で盛り上がるのを見て嫉妬した健二は…

【作品概要】

 筒井真理子 髙田万作

にしやま由きひろ 徳永智加来 中澤実子 吉開湧気 リコ(HUNNY BEE) 内田周作 川添野愛

 監督・脚本・編集・プロデューサー 佐藤慶紀

配給:渋谷プロダクション

制作:Aerial Films

© Aerial Films

【絵本に出てきそうな森の中】

父親との仲が思わしくない。少年院に入っていた。

これだけで多くの人は「なんとなく複雑」と警戒し、心を寄せることはないだろう。

それを分かっている主人公の青年ユウキは、自分から他者と関わろうとしない。

母の居場所を探し当てるため、叔母の典子を訪ねたが、高田万作演じるユウキの無愛想な態度は、人を寄せ付けない雰囲気だ。

しかしその本心は違う。気持ちをうまく表せないのだ。

筒井真理子演じる典子は、相手の言葉をそのまま「ストレート」に受け取ってしまう性質がある。そのため、ユウキが言葉を曖昧にすると途端に不安が高まり、時には迷子になった少女のように必死な表情を見せる。

一方で、母として、そして大人としての自分を保とうとする姿もあり、その揺れ幅こそが典子という人物の多面性だ。筒井はこの複雑さを、力みのない自然体の演技で体現している。

二人が分かりあうのは難しい。

しかし森という静寂な環境で鳥の声に耳を澄ますうち、ユウキは自分の気持ちにも耳を傾けるようになっていったのではないだろうか。

写真左:高田万作演じるユウキ 右:筒井真理子演じる叔母の典子 © Aerial Films

この作品は、森が舞台でなければ主人公の二人が心を通わせることはできなかっただろう。

「自然」には、それだけの力がある。

【言いたいことを言える人はいい】

作中には、典子と正反対で物事をハッキリ言う明夫という男性が登場する。

ユウキに対しても、ユウキの父に対しても「(相手が)言ってほしくないこと」をズバズバと言う。

明夫の言葉は、すべて事実ではあるが、あまりにも直接的過ぎる。

しかしこの明夫の存在があるから、繊細な人たちの存在や言葉が際立っているのだ。

明夫に他意はない。典子を慮ってのことだと分かる。

写真右:明夫 © Aerial Films

それにしても「言いたいことを言える人はいいなぁ」と思った。

相手の事情を考えることもせず、自分の感情をぶつける。

現代社会において、こういう人は一定数の割合で存在する。

森という非日常の空間で、私たちの日常に存在する「言いたい事を言う人」を投入したことが、この作品をおとぎ話ではなく現実的な世界として成り立たせた。

【森の中にやってきた下界の人】

作品の中盤、典子の息子で大学生の健二とその友だちがやってくる。

彼は従兄であるユウキにも屈託なく接し、友達とも楽しそうにやっている。

ユウキとは正反対の世界に生きている同世代の健二。

健二の存在は、ユウキが心の片隅に抱えている劣等感をあぶりだす。

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健二の仲間で苔に興味のある由香理は、ユウキの心を理解しそうだ。

それを察したのか、ユウキも少しづつ心を開いていく。

それを快く思わなかった健二の行動は、ある意味とても人間らしい。

明るく優しい青年の中に潜む嫉妬という二面性を、徳永智加来が体当たりで演技していることに好感を覚えた。

これが現実だ。実社会ではこういうことがこれからも繰り返されるだろう。

人は誰しも、自分の気持ちを言語化しないといけない時はある。

現実の世界は、黙っていても分かってくれる人ばかりではない。

SNSの普及によって顔の見えないコミュニケーションが多くなった現代だからこそ、言葉を大切に、考えて伝えることの大切さを教えてくれる作品だ。

人の言葉、街の騒音、スマホから溢れる文字、映像。急激な情報過多が進む現代において、森という大自然の素晴らしさに改めて感謝した。

© Aerial Films

11月22日(土)より新宿K’s cinemaほかにて全国順次公開


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