🆕11月22日公開 映画「道草キッチン」レビュー:50歳で出会った等身大の暮らし方

【あらすじ】

都会で小さな喫茶店を営む主人公・桂木立(りつ)。 家族や親戚もいない彼女は、余生を1人で生きていこうと決めていた。そんな折、再開発の影響でお店は立ち退きを余儀なくされ、閉店に。さらに、健康上の問題も重なり、将来への不安を抱え、茫然とする立。そこに突然、吉野川市から相続に関する通知が届いたことを機に、徳島への移住を決めた。

 主人公の立は初めて訪れる徳島の地で、様々な事情を抱えた地元の人々や、懸命に日本で生きるベトナム人たち、そして自然豊かな食材をもとに作られるベトナム料理を通じた至福の時間を経て、徐々に自分自身の中にある過去のわだかまりや親族との繋がりに真摯に向き合い、自分の生き方を見つめ直す、そんな女性の物語です。(HPより)

◆映画公式サイトはこちら

© 2025 映画『道草キッチン』製作委員会

【作品概要】 

監督:白羽弥仁

キャスト:中江有里 村上穂乃佳 本間淳志 ファム・ティ・フォン・タオ 荒木知佳 芝 博文 仁科貴 大塚まさじ/ 今 陽子

脚本:白羽弥仁 知  愛 音楽:妹尾武

エンディング曲:「月の光」作曲:クロード・ドビュッシー 

演奏:石井 琢磨 (イープラス) 

制作プロダクション :キョウタス 

配給:キョウタス

© 2025 映画『道草キッチン』製作委員会

◆第3回 ダナン・アジアン映画祭正式招待作品

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© 2025 映画『道草キッチン』製作委員会

【孤独死だけが心配な人生なんて】

立ち退きを迫られて喫茶店を閉店することにした主人公の立。

彼女の母親が経営していた時からの常連客に「これからどうするの?」と聞かれる。

「何も考えていません」とまるで他人事のように答える立。

そして更に客から「私みたいになっちゃダメよ。孤独死だけが心配な人生なんて」と言われるのである。

さまざまな事情を抱え、このように思う人が今の日本に増えていると感じているので、このセリフで一瞬、胸が苦しくなった。

その後、立は更年期でさまざまな症状を自覚するようになる。

これは経験者にしか分からないが、本当に苦しい。

心も体も常に不調なのだ。

「この先、どうしたらいいか分からない」「何もしたくない」「将来のことが全く考えられない」という無気力に近いのも更年期のひとつの症状だ。

しかも、それだけではない。

ミッドライフクライシスという「男女関係なく、主に40代から50代にかけての人生の折り返し地点で、多くの人が経験する心理的な不安定さや葛藤」があるのだ。

つまりこの作品は男性も女性も共感できるというわけだ。

【ひとりだと思っていたのに家族がいた】

訪れたことのない徳島県から相続の知らせが届いて驚く立。

空き家状態、築100年の古民家だという。

ここで立の行動力に驚かされる。

まるで縁のない土地へ行ってみようと思ったのはなぜか。

作中で明かされる立の行動力の源は「家族」への思いだった。

この作品は、独身の立が主人公であるが「家族」の在り方をしっかりと捉えている。

50歳になり、何かを知りたい、誰かを知りたいという好奇心を持つことはとても大切だ。

なぜなら、人生の折り返し地点を過ぎると、たいていのことを経験しているから。

しかしこの作品は、世の中にはまだまだ知らない感情があるのだと教えてくれる。

そんな感情を味わうためにも、偶然を逃さないことが大切だということを教えてくれる。

【1年経って移住】

いくら行動力があるといっても、徳島を見に訪れてすぐに移住するわけではない。

そこが現実味があってよい。

体調のこと、身の回りの整理、一番大事な気持ちの確認。

これらを一人で行うのに1年。満を持して移住という展開だと解釈した。

立はそうやって、自分のペースを守り、そのお陰で徳島の地に馴染んでいった。

それはとても自然な流れであった。

© 2025 映画『道草キッチン』製作委員会

【地元の人たちとの出会い】

立は出不精だというが、静かな好奇心を胸に秘めたタイプだろう。

徳島で出会った人たちが立を自然な形で導いていく演出がいい。

交流した人たちの中には、ずっとこの町に暮らしていた人もいれば、ベトナムからやってきた人もいる。

都会に出て、戻ってきた人もいる。たくさんの世界を旅して徳島に移住した人もいる。

立が、相続した古民家に以前住んでいた親戚の足跡をたどるのは、優しいひとたちに迎えられた安心感あってこそだろう。

「もっと知りたい」という情熱は生来の好奇心にくすぐられ、更年期を吹き飛ばしたのだ。

彼女の一つ一つの行動が「肩ひじ張らず」流れに任せているところが観ている者に安心感を与える。同時にワクワクしてくる。

© 2025 映画『道草キッチン』製作委員会

【美味しそうなベトナム料理の数々】

地元の人たちとの交流や血縁のルーツを探る立が、更年期など嘘のようにイキイキとしていく。

そうさせたのは、古民家に残された一冊のノート。

ベトナム料理店を営んでいた女性のレシピであった。

まったく新しいものに挑戦するには勇気が必要だが、立は元々喫茶店を経営していたくらいだから、ベトナム料理の魅力にハマることに時間はかからなかった。

ベトナム料理に徳島の名産すだちを取り入れる。

画面いっぱいに広がるバインミーやフォーといったベトナム料理がとても魅力的だ。

© 2025 映画『道草キッチン』製作委員会

日本のキッチンで作られるそれらが、古民家にとても調和している。

フォーの麺を作るのはうどんを作るのと似ているし、生春巻きを作る工程は海苔巻きを作るのと少し似ている。

和食器がベトナム料理にも馴染むことをこの映画で知った。

独身の50歳女性が移住して自分探し、というだけでは終わらないのが、この料理の力なのだと思う。

「上手に組み合わせたなぁ、こういうのが観たかった」

作品を観ながらつぶやいてしまった。

そして偶然にも立が、移住してから訪ねたある場所に着いた時に、ふと呟く。

「こういうの見たかった」と。

あなたも吉野川市の美しい自然の描写を背景に展開される物語を観ておもわず呟くかもしれない

「こういうの観たかったんだよなぁ」と。

© 2025 映画『道草キッチン』製作委員会

11月22日(土)より新宿K’s cinemaにて公開

※その他の劇場詳細はHPをご覧ください。スクロールすると出てきます。


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