※本作品は第20回難民映画祭における劇場開催作品です。
2025.12. 3 (水) イタリア文化会館(東京) にて上映されます。
第20回難民映画祭は、オンライン配信(9作品中8作品を32日間)や寄付鑑賞と、将来を担う若年層の方たちが参加しやすいように無料鑑賞の選択肢を設け、日本全国どこからでも難民一人ひとりの人生と向き合う貴重な機会を提供しています。「ぼくの名前はラワン」は劇場開催のみとなります。
◆関連記事はこちら
◆映画公式サイトはこちら
【あらすじ】
生まれつき耳が聞こえない<ろう者>でクルド人の少年ラワン。
イラクでの生活にラワンの将来を案じた両親は、イギリスに亡命することを決意。
難⺠キャンプで 1 年を過ごした後、ある支援者の尽力で一家はイギリスに入国。ラワンはダービーにある王立ダービーろう学校に入学することに。
生まれて初めて手話を学んだラワンは、先生や友達とコミュニケーションを取ることで、周囲が驚くような成⻑を遂げていく。
そんな中、ラワン一家は突然、イギリス政府から国外退去を命じられるのだった……。 (パンフレットより)

監督:エドワード・ラブレース
出演:ラワン・ハマダミン
2022年 | イギリス | ドキュメンタリー | 90分 | 先行上映
提供:ニューセレクト 配給:スターキャットアルバトロス・フィルム
【兄や両親の切実な思いが正直に語られる】
ナレーションは兄と両親。中でもラワンの唯一の友だちである兄はラワンの理解者だ。
ここが地球ではなく別の惑星であったらいいのにと願う兄。
そうすればラワンは「僕だけ違うかも」と思わなくていいだろうと。
ラワンはいつも「自分だけが違う」と感じていた。
その孤立感は平和な国であっても抱く感情。それが戦争中のイラクとあっては、孤立感に加え恐怖もあっただろう。
そしてラワンたち家族は希望を見つけるため彷徨った。

©Lawand Film Ltd 2022
【ドキュメンタリーとは思えない】
ラワンたち家族がたどり着いたのはイギリス。そこでろう学校に入るラワン。
必死に手話を覚えるラワンの、何かを得ようとする瞳はとても真剣で澄んでいる。
この作品はラワンの目をアップにしていることが多い。
それは「目は口ほどにものを言う」ということか。その眼差しから私たちが受け取るもの。
それはラワンの「学びたい」という意欲。そして「(イラク)に戻りたくない」という願いであるだろう。
作中では1年間、難民キャンプで過ごし、ボートに乗り、彷徨った旅の記録が映し出される。
戦争から逃れたいのはもちろん、息子のためにより良い環境に移りたい。
そう思うのは世界中のどの親も同じだ。
そしてラワンは、ろう学校で手話を覚えた。理解も上達も早い。

©Lawand Film Ltd 2022
特に勉強への意欲に注目したい。これほどまでに「学びたい」という意欲を持つ子どもが今の日本社会には少ないと感じる。
なぜだろうか。それは私たちが当たり前のように「言葉」を操り、他者とのコミュニケーションがスムーズに行え、戦争の渦中にいないからだ。
ラワンのように不自由な一面を持っていると、人は意欲的に生きられるのかもしれない。
マイナス要因を熱意に変えて生きることが出来るということを、この作品は痛切に訴えてくる。
ラワンが手話で伝える一言一言が、どんな脚本よりも胸を打つ言葉になっている点が、ドキュメンタリーとは思えないのだ。
【感情を表す術を覚えた時】
ラワンが出会った教師ソフィー。彼女はラワンに寄り添い、「言葉とはなにか」と問いかける。

彼女自身もろう者であるソフィー ©Lawand Film Ltd 2022
彼は学校で教師や友人といった理解者を得るまでになった。手話のおかげだと言う。
手話を使えることに誇りを感じたラワンの表情がどんどん変わっていくのが良く分かる。
自信に満ち溢れた時、人は、特に子どもはその成長が顕著だ。
手話が早くなり、サッカーも楽しむがイラク時代の心の傷は癒えていない。
そんな時、難民申請が始まり、退去の可能性が出てくる。
全てを失うかもしれない。
両親はそれを彼に伝えることが出来ない。
不安が募る。
そんな中でも手話という表現で自由を得たラワンは前向きだ。

©Lawand Film Ltd 2022
「勉強が僕を変えた、何も怖くない」
そして彼は難民申請に挑んでいく。
簡単な道のりではない。ラワンたち家族にとって彷徨っていた1年と同じくらいの不安と負荷がかかっていただろう。
しかしラワンは友人とチャットをし、兄に手話を教え、前を向いて行く。
手話という表現で自分のことを伝えられるようになった時、閉ざしていたイラク時代のことを伝えることでラワンの中で感情の整理ができていったのではないだろうか。
「言語化」「アウトプット」という言葉でその必要性を問う現代。
必要だから伝えるのではない。あふれ出る情熱で伝えるから心に響くのだ。
ラワンの手話での活動は、かたくなであった両親の価値観をも変えていく。
親は子に育てられているのかもしれないと思った。
ラワンたち家族の行く末というよりもラワンの成長から目が離せなくなる作品だ。
果たしてラワンは「自分の居場所」を見つけることができるのだろうか。

©Lawand Film Ltd 2022
尚、この作品は2026年1月9日(金)より新宿武蔵野館、シネスイッチ銀座ほか全国順次公開となる。