中野量太監督(『浅田家!』『湯を沸かすほどの熱い愛』)が脚本・監督を務めた最新作『兄を持ち運べるサイズに』(配給:カルチュア・パブリッシャーズ)は、作家・村井理子氏のノンフィクションエッセイ「兄の終い」を原作とし、絶縁状態にあった実の兄の突然の訃報から始まる、家族のてんてこまいな4日間を描いた物語です。本作は、11月28日(金)の全国公開に先立ち、11月12日(水)にTOHOシネマズ新宿にて舞台挨拶付きプレミア上映会が開催されました。

©2025 「兄を持ち運べるサイズに」製作委員会
◆映画公式サイトはこちら
◆東京国際映画祭におけるレッドカーペットの様子 舞台挨拶 新規場面写真もご覧ください。
舞台挨拶には、主演の柴咲コウさん、共演のオダギリジョーさん、満島ひかりさん、青山姫乃さん、味元耀大さん、そして中野量太監督が揃って登壇しました。
映画の背景と「ミスターダメな人」のキャスティング
中野監督は、宮沢りえさん主演の『湯を沸かすほどの熱い愛』で多くの映画賞を席捲し、二宮和也さん主演の『浅田家!』で国内だけでなくフランスでも大ヒットを記録するなど、高い評価を得ているクリエイターであり、本作は5年ぶりの新作となります。
主人公は、マイペースで自分勝手な兄に幼い頃から振り回されてきた理子役を演じる柴咲コウさんです。
共演には、家族を振り回す原因となる、映画史上稀にみるダメな兄ちゃん役のオダギリジョーさん。兄と離婚した元嫁・加奈子役の満島ひかりさん、兄と加奈子さんの娘・満里奈役の青山姫乃さん、そして最後まで兄と暮らした息子・良一役の味元耀大さんが名を連ねています。この実力派キャストが、泣き笑い、時々怒った兄を送るための4日間を紡ぎます。
舞台挨拶の冒頭、満員の客席を見渡した柴咲コウさんは「本日は映画公開に先駆けて、皆さんにこのようにお目見えできて嬉しく思っております」と挨拶。

©2025 「兄を持ち運べるサイズに」製作委員会
そして、隣のオダギリジョーさんに笑顔を向けつつ、「それと同じぐらい、本日オダギリさん、参加してくださって嬉しいです」と述べました。
柴咲さんが、公開の3カ月ほど前からプロモーション活動を行っていたにもかかわらずオダギリさんが参加していなかったことに触れると、オダギリさんは「呼ばれなかったんですよ」とおどけてみせました。
オダギリさんは、不在中に他の登壇者が自身のパネルを持っていたことに言及し、「あれはあれでかわいいなと思って見てましたし、今日はほぼはじめての参加みたいなものなので。頑張っていきたいなと思います」と意気込みを語りました。

©2025 「兄を持ち運べるサイズに」製作委員会
オダギリさんは、以前中野監督と組んだ『湯を沸かすほどの熱い愛』でもダメな父を演じており、本作でもダメな兄を演じています。中野監督は、オダギリさんのキャスティング理由について、「僕が知ってる中では“ミスターダメな人”を演じたら一番の人なので。オダギリさんしかいないなと思っていたんですよ」と明かし、会場の笑いを誘いました。
しかし監督は、ただダメなだけでなく、「最後に人間らしい温かさみたいなものを表現できる人はオダギリさんしかいない」と、絶大な信頼を寄せていることを強調しました。
オダギリさんもまた、監督から役に「ピッタリですよ」と言われたことに笑いながらも、「自分自身もダメなところはいっぱいあるし。社会に適合できないタイプの人間であると自覚している」ため、監督の思いに「納得はできるんですけどね」と述べました。
そして、「こういう役だからこそ、自分のダメな部分や、許されない部分を許してもらいたいなと思いながら演じさせてもらってます」と率直な気持ちを吐露しました。
共演者同士の温かい交流:ハグとビスケット
満島ひかりさんは、兄の元妻・加奈子として、娘の満里奈役の青山姫乃さん、息子・良一役の味元耀大さんとの家族の空気感をつくるための工夫を明かしました。

©2025 「兄を持ち運べるサイズに」製作委員会
満島さんは、青山さんが初めてのお芝居だったため「身体がこわばっているように感じて」いたとし、撮影前に「ちょっとハグしない?」と声をかけ、2人で長い時間ハグをしたエピソードを紹介しました。
青山さんは撮影前に満島さんに「ママって呼んでいいですか?」「タメ口で話してもいいですか?」と尋ね、撮影期間中は満島さんをずっと「ママ」と呼んでいたとのことです。

©2025 「兄を持ち運べるサイズに」製作委員会
一方、味元さんとは虫を通じてコミュニケーションを図ろうとした満島さんでしたが、「『ほら、虫だよ』と見せたら、『きゃー!』と逃げられて。すごい嫌いだったみたいで申し訳ないなと思いました」と笑いながら話しました。
味元さんは「びっくりしました」と当時を振り返りました。しかし、味元さんが満島さんとの距離が縮まったと感じた瞬間は、彼女が差し入れてくれたビスケットでした。「そのビスケットが僕も普段から食べてる好きなやつで。それを伝えた時の笑顔を見て、距離が縮まったなと思いました」と味元さんが語ると、会場は温かい雰囲気に包まれました。

©2025 「兄を持ち運べるサイズに」製作委員会
「愛してる」と言えなかった後悔と、人生の哲学
イベントでは、本作のテーマにちなみ、「家族や近しい人だからこそ素直に聞けなかったこと、聞きそびれたこと」についてトークが展開されました。
柴咲コウさんは、「特定の事というよりも、その時その時の素直な気持ちって家族に聞けてなかったなと思うし、自分も言えてなかったなと思う」と切り出しました。
背景には、多感な時期であったことや「日本人だから空気読んでいたというところもあったと思う」とし、「本当は相手がどう思ってるのか聞きたかったけど、ちょっと怖くて聞けなかったなということがあります」と述懐しました。
さらに、それは「シンプルに『愛してる』と言ってほしいというような、根源的なところはそこ」だとし、「つくづく自分は『好き』とか『愛してる』って全然言ってこなかったなと。それって本当に後悔になるなって思うんですよ」と胸の内を語りました。
しかしながら、柴咲さんは「でもきっとまた同じ状況になったら、恥ずかしくて言えないとなると思うんです。だから本当に家族との距離って難しいというか、シンプルだったらいいのになあと今でも思います」とかみ締めるように語りました。
オダギリさんは柴咲さんの話に共感し、「柴咲さんの話、最高じゃないですか。自分もそうだったなと思いながら聞いていました」と述べました。
家族だからこそ「気を遣っちゃいますよね」「踏み込めないものもいっぱいあります」とし、「どんな生き方をしていてもきっと後悔はすると思う。生きていくっていうことは、後悔を背負い続けるってことなんじゃないですか?」と哲学的な見解を語り、会場を沸かせました。
対照的に、満島さんは「わたしは割と性格が素直なので。結構『アイラブユー』って言ってハグするような家庭で育ったんです」と明かしました。大人になるにつれて家族それぞれに違う人生があることに気づき対話を始めているとし、この映画を演じた経験も「すごく学びになるし、きっと2、3年後にハッと気づくことがあるんだろうなと思います」と語りました。
青山さんと味元さんも、家族への配慮や伝えることの重要性についてコメントしました。
青山さんは「父や母の思い出話になった時に、その人にとってあまり良くない記憶だったらどうしようと思って、素直に聞けないことがあります」と気遣いを述べ、味元さんは「自分が言ったことも言葉のニュアンスによって伝わってなかったりすることがあって。家族だからこそちゃんと伝えることが大事なのかなって思ってます」と語りました。
中野監督が両親に聞けていないことは、22、3歳の頃に「映画監督になるから金を出してくれ」と言って出してもらった資金について、「本当にこの子が映画監督になると思って出してくれたのか」という点でした。
観客へ:この映画を「育ててほしい」
イベントの終盤、柴咲さんは本作について、観客が「評価をするということではなく、自分の気持ちを吐露したくなるという、そういう不思議な映画に仕上がっているんじゃないかなと思います」と、作品の持つ独特の魅力を表現しました。
そして、普段レビューを書く人間ではない自身も「書いてしまうと思うんです。そういう不思議な魅力がある映画だと思います」と語り、感想の拡散を呼びかけました。
中野監督は、「この映画は見てもらって、皆さんに育ててもらう映画だと思っている」と強く語りかけました。

©2025 「兄を持ち運べるサイズに」製作委員会
監督は、登壇した6人のそれぞれの魅力を引き出して撮ったとし、「ちゃんとそれぞれの気持ちに思いを馳せながら観れるように撮っているつもりです」と自信を見せました。
さらに、「誰に感情移入するか、というのも面白いと思いますし、人によって違うと思います」と、観客が多様な視点から楽しめることを示唆し、「決して『家族はこうだ』というような大仰にえらそうな映画ではありません。皆さんの映画にしたつもりです」と締めくくり、映画への愛を呼びかけました。
本作『兄を持ち運べるサイズに』は、11月28日(金)より全国公開されますが、それに先立ち、11月21日(金)からTOHOシネマズ日比谷・TOHOシネマズ梅田にて先行上映が行われます。
先行上映期間中は、特別映像の上映や、柴咲さん、満島さん、中野監督のスペシャルトークを見ることができるQRコード付きのビジュアルカードの配布も予定されています。
この作品は、観客一人ひとりが、まるで鏡を通して自分の家族との距離や過去を振り返り、素直な気持ちを再び見つめ直すための、個人的なきっかけとなるでしょう。