大ヒット上映中!映画「盤上の向日葵」レビュー将棋に生きる男たちの人間ドラマ

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◆配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント/松竹

©2025映画「盤上の向日葵」製作委員会

【あらすじ】

山中で謎の白骨死体が発見される。

事件解明の手掛かりは、遺体とともに発見されたこの世に7組しか現存しない希少な将棋駒。

容疑をかけられたのは、突如将棋界に現れ、一躍時の人となっていた天才棋士〈上条桂介〉だった。

さらに捜査の過程で、桂介の過去を知る重要人物として、賭け将棋で裏社会に生きた男〈東明重慶〉の存在が浮かび上がる。

桂介と東明のあいだに何があったのか?

謎に包まれた桂介の生い立ちが明らかになっていく。それは、想像を絶する過酷なものだった……。(HPより)

将棋を知らない人でも楽しめる

将棋のやり方は全く知らない筆者だが、それでも画面に釘付けになった。

それは、盤上に生きる人々の緊張感や切迫した表情が、将棋の厳しい世界と、そこから抜け出せない人間の心理をありありと伝えてくるからである。

坂口健太郎演じる主人公、上条桂介の幼少期はつらい。いや、悲惨と言ってもいいかもしれない。

酒とギャンブルに溺れる父親と二人暮らし。想像が付くだろう。

しかし、そんな上条を見守る人がいた。

小日向文世演じる唐沢だ。彼は元小学校の校長をしていた経歴を持つ。

子どもながら苦境に耐える上条に手を差し伸べる人物だ。小日向以外の適役はいない。

©2025映画「盤上の向日葵」製作委員会

唐沢が上条に将棋を教え、妻と共に愛情深く接する様子が丁寧に描かれている。

この経験があったからこそ、上条は迷うことなく堅実に成長していったのだろう。

幼少期に他者(理想は親)から認められることの重要さを、改めて考えさせられる。

この部分は昭和が舞台であるが、現代においても共感する人がいるだろう。

今も不遇な子どもというのは存在するし、桂介のように生きてきた人も多いからだ。

棋士の話というより、人間ドラマの意味合いが強いことが良く分かる。

苦境を経験した人間の分かれ道

数年後、刑事たちが白骨死体の身元を明らかにする過程で上条が捜査線上に浮かぶ。

彼はその時、将棋界に突如現れた天才と称されていた。

捜査を進める刑事たちの中に、過去に奨励会に在籍していた男がいる。

高杉真宙演じる佐野だ。彼は将棋の厳しさを知っているからこそ上条の凄さに惹かれていく。プロ棋士になれなかった佐野を、物事に対して実直に取り組む刑事として高杉が好演している。

佐々木蔵之介演じる佐野の上司、石破は佐野を叱咤しながら作品の中で上条の過去を明らかにしていく。

判断力と素早い行動が物語の中で司会進行のような役割で小気味良く進む。

そして上条の幼少期を知るにつれ、身元不明の白骨死体の人間を恨んでいたのではないかと推測するのだ。

©2025映画「盤上の向日葵」製作委員会

佐野独自の視点で、その過去を推測していく時、ある男「東明(とうみょう)」との接点を見つける。

東明は賭け将棋の真剣師であった。ふたりを繋ぐものは何なのか。

観る者はますます目が離せない。

真剣師との出会い

成長の過程で苦境を経験した人間は2種類に分かれると思う。

懸命に光の中を歩もうとする者とそれを言い訳にして闇に生きる者。

前者である上条と後者である東明という男が出会った時、それは偶然のように見えてそうではなかったことが、物語が進むにつれて分かってくる。

上条が出会う人物は、見守ってくれた恩師、東明、どちらも必然であったのではないだろうか。運命というやつだ。

東明は上条にとって憧れの人物であった。小さい頃から雑誌などでその姿を見てきた。

そして実際に「本物の真剣勝負」を見せてくれた。

演じる渡辺謙の凄みが光る。まさに任侠の世界に生きる男のようだ。

上条を振り回す一面もあるが、こと将棋になると誰も彼の前に出ることはできない。

借金のために、柄本明演じる真剣師と戦う場面は圧巻だ。

©2025映画「盤上の向日葵」製作委員会

渡辺謙と相対する柄本の鬼気が、観る者に瞬きを忘れさせる。

まさにこの二人の勝負は壮絶だ。それを見ていた上条に、いつの間にか狂気が伝染したのではないか。

出自に隠された宿命

石破と佐野が操作を進めていく中で判明する上条の幼少期に匹敵するほど衝撃的なのが、その出自である。

©2025映画「盤上の向日葵」製作委員会

それは宿命と言ってもいい。上条がその宿命に身を任せようとしていた時、彼に「俺もお前も将棋がなきゃ生きていけねえんだ」という東明。

その言葉は、平凡に暮らし婚約者と共に幸せを掴みかけていた上条に将棋への思いを再燃させる。

この時の上条は自分の中に潜んでいた狂気を隠そうとしない。

坂口が、その変貌を巧妙に演じている。

東明が乗り移ったかのように、彼の台詞はやがて、殺気さえ帯びてくる。

「天才」と言われた男の過去が私たちに示すものは何か。

彼は本当に天才だったのか。

上条が容疑者となった理由が明らかになった時、彼を天才たらしめたのは「狂気」ではなく、「感謝」だったのではないかと筆者は思った。

恩師への感謝、婚約者への感謝、そして東明への感謝。

物語の重要なモチーフである向日葵は上条にとって愛する人との思い出。青空に向かって真っすぐに伸びるそれに憧れた上条はラストにどのような顔を見せるのだろうか。

©2025映画「盤上の向日葵」製作委員会

ぜひ劇場の大画面で観てほしい。

エンディングテーマであるサザンオールスターズの「暮れゆく街のふたり」が、作品の余波を更に大きくしている。

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