4月25日公開「ただ、愛を選ぶこと」~焦ることなど何もない、私達が出来ることはいつだってただ一つ。

小鳥の声がさえずる森の中、ホームビデオが回っている。
ここはノルウェーの農場。撮影しているのはマリアという女性だ。
4人の子どもの母であり、写真家で、自然愛好家でもある。マリアは語る。
「開放的に支配されず生きる、自由と愛に満たされて」

©︎ A5 Film AS 2024

文面だと強い言葉だが、スクリーンから聞こえる声は、自然あふれる森を子ども達の走る姿や笑い転げる様子を背景に優しく響く。
その真意は砂が水を吸うように筆者の心に染み入った。自由と愛に満たされて…。

このドキュメンタリーにネタバレはない。最初から最後まで「自由と愛に満たされる」ために、ある家族が選び続けてきたものが映し出される。

近年、これだけストレートで真意を付いたタイトルを見たことがない。物語のいくつものテーマを一言で表している。
原題「A New Kind of Wilderness」はマリアが記していたブログのタイトルだ。

映画『ただ、愛を選ぶこと』 公式サイト映画『ただ、愛を選ぶこと』の公式サイトです。www.tadaai-movie.com

©︎ A5 Film AS 2024

【あらすじ】
ノルウェーの森にある小さな農場で、自給自足に近い生活を送るペイン一家。母マリアと父ニックはかつて街で働いていたが、競争社会や物質主義からの自由を求めて農場に移り住み、長女ロンニャ、次女フレイヤ、長男ファルク、次男ウルヴの4人の子どもたちを豊かな自然の中で育ててきた。
だがある時、家族の中心的存在で、写真家として稼ぎ手でもあったマリアが闘病の末に亡くなり、一家の暮らしは一変してしまう。
きょうだいの中で唯一マリアの連れ子だったロンニャは実の父と住むことを決め、家を出る。
ニックは外で働き出し、それまで両親からホームスクーリングを受けていたフレイヤとファルクは学校に通い始める。
またニック一人では農場を運営できないことから、ニック、フレイヤ、ファルク、ウルヴの4人は街に近い家に引っ越すことに。
新しい生活に馴染もうと努力する中で、家族は一人ひとりカメラに向かってマリアを恋しく思う気持ちや、人には言えない悩みを打ち明ける。ロンニャは妹たちに会えない寂しさを語り、フレイヤは学校生活への不安を見せ、ニックはイギリス人として異国ノルウェーで子育てを続けることへの気がかりを吐露する。
やがて季節はめぐり、ロンニャは新天地に旅立ち、家族はそれぞれ新しい一歩を踏み出していく。

【子どもたちにこの星の大切さを教え、愛してもらいたい】


森で小さな花を摘む末っ子。その頬はぷっくりしていて伏せたまつ毛は長く、スクリーンいっぱいに映し出される姿は妖精のようだ。
もしかしたら母、マリアの死を理解していないかもしれない。
松ぼっくりを並べてハートの形を作るきょうだいから伝わってくるもの、それは亡き母への愛、そして父も含めて家族4人になった一家は、全員の手をマリアの墓前で重ね合わせる。
子どもたちが、母への手紙を読み、焚火で燃やすシーンは、激しい炎とは反対に静謐に感じた。
悲しいはずのシーン、それなのに美しい。北欧の森と、農場の動物たちは、どの一瞬も、この家族を一枚の絵にする。
それはマリアの「子どもたちにこの星の大切さを教え、愛してもらいたい」という信念が作品全体に流れているから、どのシーンもありのままの姿が美しいのだと思った。

【ホームスクールという選択】

そしてきょうだい達は両親が「子どもが本来持っている野性味と遊び心を育てるため」に選んだ「ホームスクール」を続けながら、日常はつづいて行く。だが父は思っているのだ「(自分)一人では(子育ては)むずかしい」と。

©︎ A5 Film AS 2024

この作品のひとつのテーマが「ホームスクール」であると知った時、
私にしか書けない記事だと思った。
私も息子と二人で1年間だけだが、ホームスクールをした。
不登校になったのではない、親子で相談して決めたのだ。
そう、この夫婦が決めたように。

作品の中で行われているホームスクールは「家族の毎日をもっと一緒に過ごすため、すべては家族のため、こんな風に外に出て自然に触れる」
この日の授業は薪を割り、バーベキューをする。子どもたちは声高らかに「これこそ人生だね」子どもは全てを理解している。
我が子もそうだった。自然の中でこそ、自分らしくいられることを知った。

©︎ A5 Film AS 2024

【季節の旬の素材を教科書に様々な角度で多様な科目を学ぶ】

我が家のホームスクールはこうだった。
雨の日以外はほぼ外遊び。その日の気分でスケジュールを決める。春は野草を摘んでフルーツと合わせて毎日天地返し。酵素ジュースで発酵を学んだ。
その野草で草木染をし、色の変化で化学を学んだ。野草の土を顕微鏡で見て微生物を探し、ミミズを飼った。
酵素シロップで使った野草とフルーツはコンポストに入れてゴミを出さない工夫をした。夏は川で追い込み漁、アベハゼやメダカを家で育てた。
捕まえたカタツムリは産卵し400匹にまでなった。
育てている蚕のために毎日、桑の葉を探し、その地図を家族で描いた。
秋にはどんぐりやムクロジなどの木の実を拾った。冬は毎週スキー。
雨の日は水溜まりマップを作り、ミミズを救出しに行った(ミミズは皮膚呼吸が出来ないので雨の日は地上に出てくる)

海水から天日塩を作り、にがりから豆腐も作り、工作も絵も緻密な作業が大好きで、学んだことは多い。
2人で毛糸で編んだコースターを売り、ウクライナに募金した。
本もたくさん読み、ドキュメンタリーや映画で歴史や人の心の変遷も学んだ。机上の勉強はしたことがない。
それでも息子は毎日、健やかに育った。私は、体力的精神的にしんどい日の方が多かったが、今思えば、尊い日々だった。
息子には、この物語の子どもたちのようにきょうだいは居ない、それでも寂しくはなかったという。

【何気ない一瞬にふと不安を感じるホームスクール】

この作品の子どもたちは、きちんと机上の勉強もしている。
妻がいなくなり、一人でホームスクールをすることになった父親は英国出身のため、自分がノルウェー語を正しく教えられているか不安になる。
「何か取返しが付かないことをしているのではないか」と迷い始めるのだ。

©︎ A5 Film AS 2024

私も時にはそんなことを思った。
同級生が学校へ行っている中、親子で公園で幼虫を探していると、悪気無く尋ねてくる人がいた「学校は今日はお休み?」
その言葉に息子は初めて言った「ママ、ああいうのが学校のみんなが使う『ウザイ』っていうのだね」と。
その時、私は息子にそのような感情を持たせてしまうホームスクールに自信を失いかけたことがある。

さて、あらすじにおおまかな展開は書いておいたが、この後、家族はいくつかの選択を迫られる。
しかしその度に子どもの誰かが「故郷」がどこかを教えてくれる。

このドキュメンタリーを見終わって、私は自分が焦っていたことに気付いた。ドキュメンタリーを作りたい若手はたくさんいるのに、考察記事は読まれない現実。減って行く執筆本数。反故になった取材。謝り続ける日々。

【我が子と真っ向から向き合い、寄り添った一年間は宝物に】

何も焦らなくていい。流れに任せていい。いつも「ただ、愛さえ選んで」生きていればそれでいい。帰る場所はひとつだ。
予測不可能な時代を、未来のために今からあくせくしなくていい。
今を生きればそれでいい。心からそう思った。この作品が教えてくれた。

大切なのは「学校」ではない。学び方だ。
大切なのは「教科書」ではない。自然との共存だ。
大切なのは「規則」ではない。自分がどうしたいか、だ。

家族のため、ただ、愛を選んで生きていれば、仕事で悩むこともない。
常に愛を選んで、伝わる人だけに伝わる記事を書こう、細々と。

私は「ただ、愛を選んだ」結果、息子とのホームスクール時代が宝物になった(今でも放課後はホームスクールをしている)

やはりドキュメンタリーは人生最高の教科書だ。
派手さはないが、人間が本質的に求めているものを描く本作品「ただ、愛を選ぶこと」は4月25日、銀座シネスイッチで公開される。
新しい年度が始まるこの日に、このドキュメンタリーを見て心を落ち着かせて新生活へ。読者、視聴者の方を応援しています。

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©︎ A5 Film AS 2024

文・栗秋美穂