2025年4月4日公開「HERE時を越えて」考察記事~あなたのHEREはどこですか?

【STORY】
 ここは、地球上のある場所。恐竜たちが駆け抜け、火山が噴火し、氷河期がおとずれる。時は流れ、緑が芽吹き、オークの木が育ち、ハチドリが羽ばたき、先住民族の男女が出会う。さらに時を越えて、オークの木が伐採され、土地がならされ、1907年に一軒の家が建つ。そう、この物語の舞台となるのが、この家のリビングだ。
 最初にこの家を買ったのは、ジョンとポーリーンの夫婦。やがて女の子が生まれるが、予期せぬ運命に見舞われ引っ越してゆく。次にレオとステラというアーティスティックなカップルが入居し、個性的なインテリアで部屋を生まれ変わらせる。約20年間、仲良く暮らした2人は、ある“発明”に成功し、新たな世界を求めて旅立ってゆく。
 そして第2次世界大戦が終結を迎えようとしていた1945年、この物語の主人公となる男の両親が登場する。戦地から負傷して帰還したアル(ポール・ベタニー)と妻のローズ(ケリー・ライリー)だ。ローズから妊娠したと知らされたアルは、予算を上回っていたが、思い切って家を購入する。やがて長男のリチャードが生まれ、続いて長女のエリザベス、次男のジミーが誕生する。
 高校生になったリチャード(トム・ハンクス)は、絵描きになることを夢見ていた。そんな中、別の高校に通うマーガレット(ロビン・ライト)と出会い、2人は恋におちる。マーガレットは、高校卒業後は大学に進学し、弁護士になることを目指していた。だが、マーガレットの妊娠が発覚し、リチャードと10代で結婚することになる。
1964年、リチャードの家のリビングで結婚式を挙げた2人は、アルとローズと同居を始める。生まれてきたのは女の子で、ヴァネッサと名付けられた。リチャードは保険会社に就職し、画材や描きかけの絵をすべて片付けるのだった。
 ヴァネッサが小学校に入学した時、マーガレットはリチャードにそろそろ自分たちの家を買わないかと持ち掛ける。だが、リチャードはローンの金利の高さを理由に「今は無理だ」と答えるのだった。
 感謝祭、クリスマス、家族のバースデイ──楽しい時が過ぎてゆく。
 ヴァネッサの反抗期、夫婦げんか、家族の病気──悲しい時も過ぎてゆく。
 そして、マーガレットが50歳を迎えたその日、2人の人生は思いもかけない時へと迷い込んでゆく──。

プレスリリースより

ロバートゼメキスと言えば、多くの人が「バック・トゥ・ザ・フューチャー」を思い出すだろう。
タイムスリップして両親に出会う。詳細は書かないが、エンタメ性に富んだ作品だ。
そしてトム・ハンクス。フォレストガンプはいまだ記憶に新しい名作だ。
そのチームと出演者と監督が再集結したのなら・・・
筆者は「テンポよく会話もコミカル、それでいてスローなシーンで心を優しくするヒューマン映画」を想像した。
見終わって「心を優しくする」作品であったことは間違いなかったと思う。
しかしもっと言うなら、穏やかな波が満ちたり、引いたりしている湖のような作品だった。
波に例えたのには訳がある。
この作品は、何人もの人間が登場し、出会い、別れ、人生の波を泳ぐかのようだからだ。
そう、登場人物が多すぎる。

明後日4月4日の公開に向けて、ぜひこの記事を予習と思って、下記時系列を理解して見てほしい(必要なければ、まっさらな状態でみてください)


重要な日付とタイムライン(メインのところを抜粋)
1945年春 ― アルとローズ(妊娠3か月)が家を購入。
1945年 9月 ― リチャードが生まれる。
1946年 ― マーガレットが生まれる。
1950年 ― エリザベスが生まれる。
1952年 ― ジミーが生まれる。
1961年 冬 ― アルが職を失う。
1964年4月 ― リチャードとマーガレットが結婚。
1964年 9月 ― ヴァネッサが生まれる。
1979年 1月 ― ローズが脳卒中で倒れ、車椅子生活になる。
1979年 秋 ― ローズとアルがフロリダに引っ越す。
2003年 秋 ― マーガレットが引っ越す。
2005年 ― リチャードが家を売却。
2015年 ― ヘレン、デヴォン、息子ジャスティンが入居。
2020年11月 ― ラケルがコロナに感染。
2021年1月 ― 家が売りに出される。
2021年夏 ― ヘレン、デヴォン、ジャスティンが引っ越す。
2022年 ― リチャード&マーガレットが家を訪問。
メインキャストはトム・ハンクス演じるリチャード。
その妻、マーガレット役には「フォレストガンプ」でも共演したロビン・ライト。この二人は大学生の時に恋に落ちる。そしてマーガレットが妊娠し、長女ヴァネッサが生まれる。

Tom Hanks and Robin Wright star in HERE.


2人は両親であるアルとローズの元で同居する。
さて、この同居生活。いや、それまでの物語もリビングだけが舞台なのだ。
人物の入れ替わり、成長、季節によって、部屋の家具や置いてあるものは変化していくのだが、このリビングだけを定点撮影しているのが、本作の特徴だ。
最初は意味が分からなかった。まるで外のシーンは出てこないのだ。
しかしこのリビングでいくつもの出会いと別れが繰り広げられ、その繰り返しが人生なのだと理解していくには、定点撮影が必要だったと分かるだろう。
家族が増えれば増えるほど、どこの家庭にも起こりうるさまざまな問題に直面するが、このリビングだけは変わらず存在する。
若い結婚、嫁姑問題、子どもの進学、直面する老い。
あんなに愛し合っていたのに、すれ違う人々。
しかし感謝祭の時はこのリビングに皆が集合する。
そう、このリビングはまるで実家のような存在、この作品の「主人公」なのだ。
帰る場所だが、巣立つ場所でもあるこのリビングは何を象徴するのだろう。
筆者は「原風景」だと感じた。
原風景というと「外の景色」を思いがちだが、そうではない。
かつてあの子が子どもだった時はその場所に大きなクリスマスツリーがあり、今度誕生した子どもがいるのはこの場所にベビーベッドがあり、と。
登場人物が変わっても、このリビングのどこに誰が存在していたのかが分かる。

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家具は変われど、人は変われど、このリビングはいつも住む人々を暑さ寒さから守り、そして包んで来た。
それが「ここ、HERE」なのだ。
日本は常にどこかで新築の家が建っているが海外はそうではない。
安普請ではない家を、新しい人がリフォームしながら大切に住み続ける。
作中の家もまさにそうで、親から子へ、あるいは別の人へ。
決して解体して新築にはならないのだ。
生活の変化によって家自体を二世帯住宅に建て替えたり、バリアフリー仕様にリフォームする日本とは違って、ほとんど何も手を加えず、工夫して暮らし続けるのが海外の住宅事情。
この映画は日本では作れなかっただろう。
派手な展開も分かりやすい感動もない。
ただ、人が自分の気持ちを波のように押したり引いたりしながら、互いを思いやり、出会いと別れを繰り返す物語だ。
それはなんてすばらしいことだろう!
見終わった後、筆者は夫との老後を考えた。
どんな形になっているか分からない。
しかしリチャードとマーガレットのように、感情の波が寄せては引いてを繰り返し、惹かれ合う二人でありたいと思った。

Tom Hanks and Robin Wright star in HERE.


刺激の強い現代だ。何もかもが素早く過ぎる。情報過多のあまり手っ取り早く入手できる読み物が好まれる。
「この記事を読むのに~分です」とまで書かれている。
時短、効率でタスク管理に追われ、皆が大波の中を泳いでいるように感じる時がある。
しかし、そのようにしてまで得るものはなんだろう。
一か所に留まる人生とは、贅沢なものだと感じた。
子どもがミニカーで傷付けた床、はがれた壁紙、我が家もボロボロに近いが、モノの少なかった二人暮らしの頃から、オムツやロンパースがその辺に転がっている時代を過ぎ、片づけそびれたレゴを踏んで激痛にやられ、今度はキッチンの柵を乗り越えてやってくるヤンチャに負けて抱っこしながらキッチンで立ち食いの日々。この一室には私達家族の全てが詰まっている。
ずっとここに居たい。HERE、あなたの「ここ」はどこですか?
まだ見つかっていない人はみつかりますように。
そして「ここ」から出たいと思っている人には、あなたにふさわしい「ココ」が見つかりますように。
全ての人が、HERE 自分の居場所をみつけられるように願わずにいられない映画だ。
早朝、見終わった後、まだ寝ている夫と息子のいないリビングでつぶやいた。「ありがとう、私のHERE」

Tom Hanks and Robin Wright star in HERE.

文・栗秋美穂


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