4月25日公開「ただ、愛を選ぶこと」監督インタビュー到着!

映画『ただ、愛を選ぶこと』 公式サイト映画『ただ、愛を選ぶこと』の公式サイトです。www.tadaai-movie.com

考察記事はこちら

◆前回の考察記事では「ホームスクール」に焦点を絞って書きましたが、実はもう一つ大きなテーマがこの作品にはあるのです。
それは血のつながらない長女と次女の間で流れる不思議な空気感でした。
互いを憎んでいるわけではない。しかし仲の良い姉妹とも言えない。
自分たちを振り返った時に長女のロンニャは旅立ちます。
今回はそのことを、監督インタビューを通して考えていただきたいと思いました。

DIRECTOR’S INTERVIEW
シルエ・エヴェンスモ・ヤコブセン監督インタビュー


——ペイン一家との出会いについて教えてください。


今から 10 年ほど前、私自身が子どもを持つことを考え始めた頃、友人からマリアのブログ「wild+free」を薦められて読んだのがきっかけです。
家族の日常を写した写真の素晴らしさに驚くとともに、競争社会からの脱却や自然と調和した暮らし、ホームスクーリングといった人生の選択に関して、いい時と悪い時の両方を真摯に綴った文章に惹かれました。

そして TV のドキュメンタリーシリーズでマリアとその家族を追いかけたいと思い、電話をかけたのです。マリアはすぐに快諾してくれ、まずは1日かけて撮影を行いました。
末っ子のウルヴがマリアのお腹にいた頃です。その映像を編集してテレビ局にプレゼンしたのですが、企画が通らないまま数年が経ち、2018 年に彼女はがんを宣告されました。
翌年、亡くなったと知らされた時、私は親しい友人を失ったと同時に、世界から重要な声が消えてしまったと感じました。
今こそ彼らを撮るべきだと思い、マリアの夫ニックに電話し、マリアの作品と現在の家族の姿を映画にしたいと申し入れました。


——撮影開始時点でどのような作品構成、ゴールを想定していましたか。


最初は冬にファルク、春にフレイア、夏にウルヴ、秋にロンニャというふうに1人ずつフォーカスし、1年間の物語として構成しようと考えていました。というのも彼らの誕生日がちょうど四季に分かれているのと、マリアがブログで季節の移り変わりによく触れていたからです。
でも撮影を始めてすぐにロンニャとフレイアの姉妹関係と、ニックの葛藤が重要なテーマになると気づき、ニックに「1年間撮影させてほしいと言ったけれど、もっと長くかかるかもしれない」と伝えました。
撮影を続けた約3年の間、フレイアが学校に行き始めたり、ニックが外で働き出したり、ロンニャが移住したりといった状況の変化がありましたが、それらの出来事は家族の暮らしに密着する中である程度事前に予想できたので、撮影のチャンスを逃さないようにし、結局すべてを撮り終えてから構成を作りました。
撮影は家族が喪失から抜け出したと感じられた時にストップしました。
家族のその後を追い続けたい気持ちはありましたが、いい頃合いだと思ったのです。


——家族はカメラの前でもとても自然に振る舞っているように見えますが、どのような撮影体制だったのですか。

撮影クルーは私を含めて最大2人です。 繊細な場面を中心に約6割は私1人で撮影しました。 それ以外のシーンは撮影監督に同行してもらい、私は演出と録音を行いました。 彼らが自然体に見える理由はいくつかあって、まず彼らはマリアに撮られ続けてきたので、カメラの存在に慣れています。 カメラがあるからといって態度を変えることもなく自分の好きなように行動し、逆に「撮影するからここに座ってほしい」などと注文するとノーと断られたりします(笑)。 2つ目の理由は、カメラなしでも長い時間、一緒に過ごしたこと。単なる被写体としてではなく、人間としての彼らを知りたいという私の気持ちを理解してもらえました。 そして3つ目の理由は子供たちがスマホを持っていなかったということです。 ずっとスマホに向かっている人を撮ってもあまり面白い映画にはなりませんが、彼らはお互いと会話したり屋外で遊んだりする時間が多く、いい画が撮りやすかったといえます。

 ——農場から引っ越す時にドラムを叩きながら歩き回ったり、食事の前に手をつないで感謝したり、生活の中のさまざま な儀式が映っていますが、どのような意味があるのでしょう? 

あれらは特定の宗教儀式でもノルウェーの一般的な習慣でもなく、彼ら独自の儀式です。牛を解体した時に感謝するのもそうです。 現代の私たちの生活から失われてしまった精神を象徴する素敵な習慣だと思い、映画で使いました。 農場にはマリアとニックが植えた子どもたちそれぞれの木があり、残念ながら映画には入れられなかったのですが、彼らが木とお別れのハグをしていた姿も印象に残っています。

 ——ロンニャとフレイアの関係がストーリーの大きな軸となっています。胸が締めつけられる場面がいくつもありますが、撮影していていかがでしたか。 

母親の死の受け止め方が姉妹で大きく違っていたのが印象的でした。 ロンニャは最初はショックの方が大きく、兄弟に会いたがっていましたが、時間が経つにつれて深い悲しみと孤独に沈んでいきました。 母親の話題を嫌がり、撮影されているところを他人に見られるのも嫌がりました。 ニックとの間にも壁があり、作中に農場を訪れるシーンがありますが、彼女は決して家の中には入りません。 そんなロンニャがマリアの思い出の場所である北部へ旅立ち、自分の人生を生き始めます。 これは後日談ですが、彼女は今、各地の映画祭やがん患者家族の会などで自分の体験を話しています。 撮影を始めた頃から驚くべき変化を遂げました。 一方のフレイアは父や弟たちの面倒を見ることで精一杯で、自分の辛さは表に出しませんでしたが、ロンニャを恋しく思っていることは伝わってきました。 その様子を見て、姉妹の絆が映画のメインの軸になると直感しました。 実際、撮影を通してお互いの気持ちを知れたことは、本人たちにとって癒しの効果があったと思います。

 ——あまり自分のことを開示するタイプではないように見えるニックが家族の将来について悩みや不安を吐露するシーンにも驚きました。

 確かにニックは内向的な人で、彼をよく知る人からは「よくあれだけ撮れたね」と驚かれます。ニック本人も映画祭の質疑応答で「嫌な被写体だったと思う」と自虐気味に笑っていました(笑)。 撮影時は、まず私の方から心を開いて正直に話し合える関係を築き、試行錯誤しながら距離の取り方を学んでいきました。 ニック本人だけでなく、子どもたちもニックのムードに影響されるので、子どもたちを撮る時もニックの気持ちを読み取る必要がありました。 決して撮影に積極的なタイプではありませんでしたが、周りに家族以外の人が少ない中で私の存在をありがたいと言ってもらえた時は嬉しかったです。 ドキュメンタリーの撮影者はつい撮りやすい人、よく喋ってくれる人にカメラを向けがちですが、そうではない人に出演してもらうことで伝えられることがあります。 

——本作ではマリアが撮影した写真・映像と詩的な文章も重要なパートを占めています。

 家族はマリアが亡くなった後もマリアの影響を受けながら暮らしています。ニックが子どもたちの教育方針について悩むのも、ロンニャがカウトケイノに旅立つのも、それらがマリアの願望やマリアの愛した場所だったから。 映画にはマリアの声が不可欠だと思い、彼女のブログの文章をナレーションとして入れました。 実際に読んでいるのは俳優ですが、紛れもなくマリアの言葉、マリアの声です。 文章も写真も映像も素敵な作品がたくさんあるので、選んで編集するのは大変な作業でした。 ただ森の中で自分の顔を映した映像(鳥のさえずりに耳を澄ませている本人の顔のアップ)については、最初に見た時からこれを映画の始まりと終わりに使うと決めていました。

 ——マリアは出産写真を中心としたフリーランスの写真家として生計を立てていたそうですが、ノルウェーではどれくらい有名なのでしょう?

 マリアは写真業界内では評価されていて、ブログにも世界中のフォロワーがいましたが、いわゆる著名人ではありません。 今どきの SNS で発信するインフルエンサーとは異なる、ホームページで作品を発表しているアーティストのような存在として私は捉えていました。 マリアが仕事で撮っていた出産写真もとても素晴らしい作品です。 

——映画の原題「A New Kind of Wilderness」はマリアががんの闘病を公表した日のブログタイトルから取られています。

 かなり初期の段階でこれを映画のタイトルにしたいと考えていました。 マリアは病気を宣告されて未知の荒野に足を踏み入れたわけですが、遺族とってはマリアのいない世界こそが未知の荒野です。 

——作中とエンディングで流れる2つの曲(ダニエル・ノーグレンの「Moonshine Got Me」と「I Waited For You」)についても教えてください。 

ダニエル・ノーグレンはマリアが好きだったスウェーデンのシンガーソングライターです。 イタリア映画『帰れない山』(2022)で彼の曲が大々的に使われているのを知っていましたが、低予算の本作で人気ミュージシャンの楽曲を使うのは無理だろうと諦めていました。 でもダメもとでメールを送ったら OK の返事をもらえて、映画の内容にぴったり合う2曲を入れることができました。 

——最初に映画を観た時の家族の反応はいかがでしたか。

 家族には仕上げを行う前に別々の機会に見てもらったのですが、まずニックは一人で鑑賞した直後、「今まで観た中で一番美しい作品だった」と言ってくれました。 ただ後日聞いた話によると、実際は泣き崩れて全部観ることができなかった らしく、でも部屋の外で待ち構えていた私があまりにも不安そうな顔をしていたので落ち着かせるためにそう言ったそうです。 彼は今でも「誰がこんな家族の話を見たいんだ?」と言っています。 ニックたちも一緒に参加した映画祭で観客が泣きながらニックをハグしているのを見た時、私はこの映画を作って本当に良かったと思いましたが、本人は自分たちの魅力や人気にあまりピンと来ていないようです。 ロンニャとは編集室で一緒に観ました。彼女もやはり泣いていました。 作中でフレイアに嫉妬している自分の姿を恥ずかしがっていましたが、そのシーンの重要性を理解してくれました。 フレイアは笑顔でしたが、具体的な感想はあまり言わなかったです。 ファルクとウルヴにとっては、映画は少し真面目過ぎたかもしれません。もっといっぱい楽しいシーンを入れたらいいのに、といった反応でした。 確かに彼らに関しては屋外で遊んでいるシーンをたくさん撮っていてどれも魅力的だったのですが、構成の都合で削らざるを得ませんでした。 これは余談ですが、コペンハーゲン国際ドキュメンタリー映画祭(CPH:DOX)で本作が上映された際、マリアの映画学校時代の友人と話す機会がありました。なんと学生時代のマリアの夢はサンダンス映画祭で自分の作品が上映されることだったそうです! この巡り合わせにニックたちはとても喜んでいました。

受賞 ・サンダンス映画祭 2024 ワールドシネマ・ドキュメンタリー部門 審査員大賞(グランプリ)受賞 ・日本賞(NHK)2024 特別賞受賞 ・アマンダ賞 2024(ノルウェーアカデミー賞) ドキュメンタリー最優秀賞受賞 ・シアトル国際映画祭 2024 ドキュメンタリーコンペティション部門 審査員特別賞受賞 ・ザグレブ Dox 2024 スペシャルメンション賞受賞 ・レイキャビク国際映画祭 2024 ア・ディファレント・トゥモロー賞受賞 ・エルゴーナ映画祭 2024 ブロンズスター賞受賞

プレスリリースより